第9回:報連相(ホウレンソウ)

2016年9月11日 / カイシャの中国人



(写真)日本では、報連相を扱った本がたくさん出ている


 日本人は「報連相」はビジネスの基本動作だと思っている。でも僕の知る限り、中国人社員たちは、何でもかんでも報告するというのは無責任だと思っているようだ。「私なりに報連相の意味はわかります。でもこれがどうしてビジネスの基本なのでしょうか?私は必要なときにはちゃんと報連相します。当たり前のことじゃないですか」。おいおい、そこが問題なんだよ。自分が“必要なときに” 報連相されるのでは本当に困るのだ。

 その日は翌日に大きなレポート提出の納期を控え、オフィスはごった返していた。僕はある社員に声をかけた。「お前のパートは大丈夫か?僕はそのデータ分析をもとに、最後の結論のロジックをまとめなくてはならないのだから早めに頼むよ!」。「あ、そのことですか。データがまだ集まっていないので、明日までには間に合いません」。「え? どうしてそれを早く言わないんだ」。「今はこの仕事をしているから、終わったら後で老板に言いに行こうと思っていました」。

 報連相とは、組織やチームで仕事をするときの一種の行動ルールで、あらかじめ何が起こりそうかをみんなが想定できるように情報共有をするためのものだ。つまり報連相は組織構成員の事前報告義務だと言ってよい。問題が起こってから報告したり相談したりする事後報告は、報連相とは言わない。でも中国人社員はいつも言う。「何も問題が起こっていないのに、何でそんな心配する必要があるのですか?」

 中国人社員はだいたいそんな行動原理だから上海時代の僕は、仕事の進捗についてはとりあえず何でもうるさく聞くことにしていた。さすがに老板が聞くとみんな返事をするから、それで仕事のリスクを判断することにした。重要な仕事では、誰かの仕事が遅れるとか何かが起こったときにどう対処するか、それを考えておくのは管理職の務めだと思う。でもあまり疑心暗鬼になり過ぎてもいけない。最初からバックアップを用意するとその社員は出来上がらなくてもいいと思うだろう。社員を信頼する度胸も老板には必要だ。その微妙なバランス感覚が中国人を管理するポイントになる。

 でも、日本人の報連相も過ぎると問題だとも思う。つまり何でも相談モードに持ち込む社員がいることだ。「この仕事、このやり方で進めたいのですが、こんなやり方でよい結果が得られるでしょうか?」。今度は逆にそんなこと自分で考えろと言いたくなる。中国人社員のことを揶揄したが、日本の会社の“打合せ地獄”や“何でも会議”も困ったものだ。僕は中国での仕事が8年を越えたが、もう日本のこんな仕事のやり方に二度と戻ることはできないかもしれない。

 ところで、携帯電話とかスマホなるものが普及した現代は、報連相を行う環境は以前とは比べ物にならないほど発達している。昔は公衆電話に並ばなければならなかった会社への連絡も、歩きながらワンタッチでできる。でも不思議だ。こんなに便利な道具が出現しても、中国人社員の報連相が増えたという話は聞かない。それどころか連絡をしても返事をよこさない社員は以前とまったく同じだそうだ。一日中ずっとスマホ携帯を触っている社員も、上司への報告などはまた別のことなのだ。つまり報連相は、中国人社員にとって特に必要ない行動原理だとみなされていることになる。

 中国人のリスク管理について、ここで大上段に構えて論じるつもりはない。でも次に現実に起こりそうなことを予測して予め先に手を打つという行動は、会社の中国人はお得意ではないようだ。そう言えば皆さんも経験あると思うけど、北京では車で道路を走っている時、いきなり通行止めを食らうことがある。何があったのか警官に聞いても答えない。しつこく聞くと「俺は知らん、ただ通行止めにしろと言われたからそうしているだけだ」。

 中国の公務員は威張っていて庶民に事情説明などしないことはみんな知っているが、当の公務員自身も自分の”業務“の理由を知りたいとは思わないようだ。前回の「トップダウン社会」の稿でも触れたが、中国社会のリスク管理の脆さを垣間見たような気がする。