第二十四回 目標設定の大切さ

2016年8月17日 / 留学のすゝめ

(写真)講義では『10年後の自分』を学生たちに書かせている

第三回 負けず嫌い」で、負けず嫌いを巧みにコントロールし、自己のモチベーション向上にうまく利用できれば、爆発的なエネルギーとなって背中を押してくれる、と書かせていただきました。

しかし、常に負けず嫌いを駆り立てるような出来事が絶えず起こるわけでもありませんし、強い気持を持ち続けることは誰にとっても非常に困難なことだと思います。このような高いモチベーションをどうやって持続していけばいいのでしょうか?私の経験からみると、適切な目標を設定することが非常に有用でした。

目標というものは人によって千差万別です。例えば、同じ中国語学習者でも「通訳者として活躍したい」という目標をたてる人もいるでしょうし、「中国で仕事がしたい」と考える方もいるはずです。また、「通訳」でも「同時通訳」と「逐次通訳」ではまた異なる学習方法が待っています。以前、某テレビ番組で著名な映画の字幕翻訳家が「映画の字幕翻訳はジグソーパズルのようなものだ」とおっしゃっていましたので、字幕翻訳家を志す人達はこれまた違った能力を培わなければならないでしょう。つまり、まず長期の目標をしっかりと見据えることが第一歩なのです。

長期の目標が決まったら、次に「中期」そして「短期」と設定していきましょう。大体の目安としては、長期が10年後のビジョン、「中期」は3~5年後、そして「短期」は1年後のビジョンです。さらに、「超短期」として、半年後、3ヵ月後、1ヵ月後の目標をたてることも、中国語学習のモチベーションを高め、それを持続させることにつながります。

短期的には漢語水平考試(HSK)や中国語検定などの検定試験の合格を目標にするといいでしょう。「今度のHSKでは5級をとろう」とか、「今度は中国語検定2級を受けてみよう」といった、身近な目標をたてることもとても大切なことです。ここで注意すべき点は、これらのハードルを一気に高くしすぎてはいけないということです。中国語検定で2級を目指す人は、準2級をもっているべきですし、HSKでも同じです。短期の目標をあまり高く設定しすぎてしまい、なかなかその目標を達成できないと徐々にモチベーションがそがれていきます。

逆に低すぎる目標を設定しても成長しません。目標設定方法を考える上で、脳科学者、茂木健一郎氏のコメントは非常に興味深いものがあります。

『脳が一番喜ぶのは、全力でやってギリギリできるくらいの難しさの仕事に取り組む場合です。達成できると、脳内でドーパミンという報酬物質が出て、直前にやっていた行動回路が強化されます。「強化学習」といって物事が上達するコツです。夢中でやってできなければ、次回は難易度を調整すればいいのです。』

『成功しているビジネスマンは全力で疾走していって達成できるかできないかというレベルの目標を設定する人が多いようです。』
(出典)2008年3月10日 日本経済新聞コラム「仕事術」

中国の『孫子兵法』でも『知己知彼,百战不殆(敵を知り、己を知れば百戦危うからず)』と説かれています。自分が受ける検定試験のレベルを把握するだけでなく、短期的には自分の身の丈にあった目標を定めることが非常に大切なのです。


Yusaku Nishimura

投稿者について

Yusaku Nishimura: 対外経済貿易大学副教授  2010年6月に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学国際経済研究院で専任講師として採用される。  2013年1月より同大副教授。日中両国でのコラム執筆や講演活動も精力的におこなっている。  中国の外国人の大学教員の立場は、自国の言葉で教える非常勤講師か、海外の大学教員でありながら中国でも講義する客員教員が一般的。日本人を中国人枠での専任講師として採用するのは極めてまれで、人民日報やChina Dailyなどでも大きく紹介された。