第12回:日本経済って?

2016年9月11日 / カイシャの中国人



(写真)ある中国人は、日本の渋谷のスクランブル交差点の”秩序“に驚いたらしい


 中国経済の中で日本とのビジネスが占める割合はまだまだ高いのだが、総じて言えば中国人ビジネスマンは、最近日本経済に対する関心が薄くなってきている。その中にあって中国の日系企業で働く中国人社員は、日本の経済や文化に関心を持ってもらえる貴重な存在だ。日系企業の中国人社員は日本語を解する人も多く、ネットで常時日本のニュースをチェックしている人もいる。しかしだからと言って、日本の経済や社会の事情を正しく認識してもらっているとは限らない。
 その理由は、日本のニュースがだいたい自国をネガティブに語るものが多いからである。マスメディアが現行政府や社会を批判することは彼らの役割のひとつではあるが、中国人にそのことは理解できない。マスメディアの役割が根本的に異なるからである。しかしもうひとつ、中国人に日本経済の状況を誤解させている大きな原因がある。それは、中国にやってくる日本人専門家の言葉である。

 日中で開かれるシンポジウムや会社同士の会合などにおいて、日本からやってくる専門家が日本経済の現状を話す機会は多い。彼らはよく日中の「GDP伸び率」の比較表を見せる。曰く、日本は1980年代のバブル崩壊後GDP の伸び率は低迷し、中国は毎年2桁伸びている。この2国のデータを1枚の図にして示せば、日中の差は歴然だ。

 講演者が中国の勢いを示して相手を気持ちよくさせ、ビジネスを成功させたい気持ちになるのはよくわかる。でもその結果、ほとんどの中国人は日本が「沈みゆく国家」だと再認識してしまっていることにみんな気がつかないのだろうか。その結果、中国人ビジネスマンは、みんな日本経済をこう認識してしまう。「日本は不景気で、車や高級品などが全然売れないらしい」、「日本は経済状態が悪く、みんな暗い生活を送っている」・・・。

 日本人は自分の自慢などはせず、物事を謙虚に語ることで相手の尊敬を得るという習性がある。しかし国際社会、特に中国のように国際ビジネスの火花が散っている現場においては、こういう言動は何のプラスにもならない。むしろ日本とビジネスをすれば自分たちにメリットがないとまで思われてしまう。

 GDPは年間に一国が生み出す富の総和だ。日中比較をする場合に、伸び率ではなく絶対値を過去40年ぐらい棒グラフで示せば、現在でも日本の過去の「富の蓄積量」が中国を圧倒していることがわかる。日本のGDPは全然増えてはいないが、今でも毎年500兆円近くの絶対量があるのだ。別に日本を自慢しろと言っているのではない。日本の専門家はもっとポジティブに自国を語るべきだと思う。

 ところで僕は、中国人専門家も中国経済のことを意外に知らないなと感じることがある。それは中国では自国の経済や社会データの公開度が低く、分析に値するデータが入手しにくいことも原因だろう。僕は天下の清華大学の教授に、「中国人の経済学者は、アメリカ帰りの人でも世界のことを知らない人が多いですね」と暴言を吐いて睨まれたことがある。中国経済の状況は、世界のデータと比較して分析できる日本人専門家の方がむしろよく把握できているとも言える。だからもっと日本の専門家は世界経済のこと、日本の高度成長期の時の成功や失敗を”正しく“中国に伝える必要がある。

 最近のことだが、ある政府研究機関で我が社の専門家がバブル期の日本の銀行経営について語った時、彼は1989年における「世界の銀行の資産額ベスト10」の表を見せた。驚くなかれ、1位から6位までは全部日本の銀行だったのだ。講演会場が一瞬どよめいた。繰り返すが日本の過去を自慢するためではない、日本が経験した良いことも悪いこともちゃんと中国に伝えるためなのだ。

 日中関係は、経済は緊密だが政治はぎくしゃくしていると言われる。しかし経済についてもお互いにもっと理解を深めないといけない。これからはアジアの時代だと言われる。アジアでは日中は競争もあるが、補完関係・協力関係の方がお互いに重要なことは明白だ。だから僕たちも、もっと日系企業の中国人社員に日本経済のことを正しく理解してもらう努力が必要だ。彼らには、日本経済を中国に伝える伝道師になってもらおうではないか。中国人は総じてポジティブ思考だ。中国に来た日本人ビジネスマンは、日本を卑下することをやめて、もっともっと自慢すればいいんじゃないかと思う。

 もっとも最近は、中国人の若者にも「こんな格差を助長する経済成長に、何の意味があるのか!」と疑問を感じる人が増えてきた感じがする。中国もそろそろ“宴の終わり”への準備を始めなければならないのだと思う。我々も今こそポジティブに“かつての宴”を思い出そうではないか。