第十回『The House Of The Rising Sun』

2016年8月26日 / Let it Beijing



(写真)四合院のイメージ図


朝、とある駅でOさんと待ち合わせをして「借り手を探しているいい家」の見学に向かいました。
「四合院」という中国の伝統的なスタイルの家で、四つの家に囲まれた真ん中には庭があって…という形式なのですが、イメージ図を見ていただいたほうがわかりやすいと思います。

もちろん当時は「四合院」など知らなかったので、勝手に頭の中でイメージが膨らんでいました。
(どうしても住むことが難しいと感じた場合は)現地にいれば次の引っ越し先も見つかるだろう…と難しく考えていなかったこともあり、「ここで決めないといけない」というような重圧感はありませんでした。

少し目的の家まで離れた場所に待ち合わせをしたこともあり早足で向かったのですが、Oさんが何度も「無理に決めなくていいから」と言っていたのを覚えています。

旅行で観光をほとんどしていなかった自分はこの早足で歩いている間も全てが新鮮に感じていました。
中国で最も有名な繁華街「王府井」を通過して、かの有名な「故宮」の壁が見えてしまいそうな程近い場所に四合院がありました。
この場所は北京のど真ん中、つまり中国のど真ん中に位置します。

当時の自分はこの価値をよくわかっていなかったのですが、本来旅行者が飛び込みで借りられるような家ではありません。
まして、買えば何億、何十億とも言われるある意味「北京で最も優雅な暮らし」です。
今思えば、一生の運を使い果たしてもおかしくないような出会いだったんだな…と思っています。

四合院には必ず門があるのですが、門を開けて見えた景色がとても美しいと思いました。
お家の中もとても素敵な家具が揃っていて、少し見ただけで本当に気に入りました。

貸し手の方とも殆ど話もしないまま、即決で「この家を貸してください」と伝えました。
まさか一週間の旅行で引っ越すことが決まるとは思っていませんでしたが、躊躇いはありませんでした。
それは、自分の知っている北京はとても暖かくて人情味があって、本当に住んでみたい街だと思ったからです。

今回の旅行で北京にいられる時間も限られているので、具体的な引っ越しの時期などはメールでやりとりすることになりました。

そして残ったわずかな時間もあっという間に過ぎていきました。

日本に戻る当日、今回呼んでくれたKZさん夫婦と泣きながら挨拶をして「一ヶ月後くらいに帰ってきます」と伝えました。
そして私にとって中国に来て最初の友人であるマンションの管理人のおばちゃんに帰ることを告げると、抱き合いながら別れを惜しんでくれました。

私もこのおばちゃんと明日から筆談できなくなるのが本当に寂しくて、ずっと泣いていました。

飛行機が離陸するとき、北京で出会ったたくさんの人達への感謝の気持ちがこみ上げてきました。



Mine Kawahara

投稿者について

Mine Kawahara: 河原嶺旭(かわはら みねあき) 1988年10月18日生まれ。 神奈川県横浜市出身。 17歳から音楽を始め、20歳でテレビドラマ「メイド刑事」挿入歌で作曲家デビュー。2011年にAKB48に提供した『風は吹いている』が160万枚を越えるヒットとなり『アイドルと同世代の作曲家』として注目を集め、同年の年間作曲家売上第三位を獲得。アニメ・ゲーム関係の仕事も数多く手がけており、雑誌のコラムの執筆や教育関係など仕事の幅は多岐にわたる。2013年より、北京・上海を中心に活動している。