第十三回『Just Push Play』

2016年8月26日 / Let it Beijing



(写真)象棋(中国将棋)


数日も経つと迷わずに家に帰れるくらいには土地勘も付き、少しずついろんな場所に顔を出すようになりました。

幸いにも言葉がわからなくても不思議と友達は増えていき、それが言葉の勉強にもなっていきました。(もちろん北京に住んでいる日本人の方々や、日本語のわかる中国人の方々にも本当によくしていただきました)

日本でアイドルやアニメに楽曲を提供していたこともあって中国にもたくさん存在する「宅男(宅女)」=オタクと呼ばれる人達は特に興味を持ってくれて輪が広がっていきました。

しかし、そういった日本に興味を持ってくれている人達だけでなくもっといろんな人と仲良くしたいなぁ…と思い立ってあることを勉強し始めました。本来は語学を学んでしまえば意思疎通は早いと思うのですが、音楽家なので言葉よりももっと早く通じ合えるものに惹かれたんだと思います。

それは「象棋」(中国将棋)です。

北京ではいたるところに中国将棋で遊んでいる人達を見かけます。そこら辺の道ばたから飲食店の中まで場所は様々ですが、本当に身近な文化として存在しています。(仕事の合間に指してたり、仕事しながら指してたり)

不思議なことに必ずといっていいほど周りを取り囲むギャラリーもいて、「それは違う!」「こっちに指せ!」と、ヤジが飛んでいます。文化の違いなのか「将棋なんだから口出しちゃダメ」みたいなものはないようです(笑)

特に私の住んでいるエリアは老人も多く毎日象棋を飽きることなく繰り返していたので、ルールを覚えて「ねぇねぇ、おじさん。ちょっと混ぜてよ」というように手振り身振りで入れてもらい数少ないボキャブラリーの中から「我是日本人」(私は日本人です=外国人なんで言葉は話せません…という意味で使ってましたけど笑)と言って座って対局が始まりました。

当時は向こうが何を言っているのかはわかりませんでしたが、音楽も言葉が通じなくてもルール(譜面)さえあればプレイが出来るので気にせず指していました。

「象棋」も日本の将棋と違うものの(チェスに近いです)、競技人口が数億人と言われる頭脳の格闘技なので当然わかりやすさと奥深さが共存した絶妙なルールで駒を動かしていきます。

引っ越した頃は殆ど語学を勉強しなかった代わりにコンピューターを相手に毎日象棋だけ指していたので、なんと最初の対局から勝ってしまいました。

もちろん「我是日本人」(私は日本人です)と言われて油断したんだと思いますが、将棋盤を持ってきている人(毎日指してる人)に勝ってしまったので囲んでいたギャラリーも騒がしくなっていました。

向こうもムキになって「もう一局やるぞ!さっさと駒を並べろ!(というようなことを言っていたんじゃないかなぁ?と想像)」と急かしてきて、毎日のように指す仲になるまでは時間がかかりませんでした。



Mine Kawahara

投稿者について

Mine Kawahara: 河原嶺旭(かわはら みねあき) 1988年10月18日生まれ。 神奈川県横浜市出身。 17歳から音楽を始め、20歳でテレビドラマ「メイド刑事」挿入歌で作曲家デビュー。2011年にAKB48に提供した『風は吹いている』が160万枚を越えるヒットとなり『アイドルと同世代の作曲家』として注目を集め、同年の年間作曲家売上第三位を獲得。アニメ・ゲーム関係の仕事も数多く手がけており、雑誌のコラムの執筆や教育関係など仕事の幅は多岐にわたる。2013年より、北京・上海を中心に活動している。