第十九回『The End』

2016年8月26日 / Let it Beijing



(写真)録音に協力してくれた日本の音楽家も(日本)になっています


映画が旧正月(今年は2月半ば)に合わせて公開されました。

私はこの映画の音楽を手がける際に数えきれないほど見ているので正直どうでもよかったのですが、妻が見たいというので蓝色港湾という北京でもオシャレなエリアの映画館に行くことにしました。

チケットは1人80元(約1600円)と何度も無料で見てきた立場からすると高額に感じたのですが(笑)、とりあえず人生初の海外の映画館です。もちろん映画館なのでシステムは日本と大差はないのですが、料金の形態は大きく異なっています。というのも中国では同じ北京市内でも映画館ごとに価格が大きく違うのです、蓝色港湾の映画館は比較的割高な部類と言えます。

私が見に行ったのは公開から1ヶ月ほど経っていたのですが、お客さんもたくさん入っていました。内容は次のセリフを言えるくらいにもう見飽きていていたのでどうでもよかったのですが、作品が終わって流れるエンドロールで思いもよらないサプライズがありました。そこには確かに自分の名前が書いてあったのですが、あるはずのないオマケが一緒にクレジットされていました。

「河原嶺旭(日本)」

正直この作品のオファーを受けた時期は今よりずっと日中関係が悪かったことや国民の誰もが知る作品なこともあり「名前を載せてもらえるのだろうか?」「最悪中国風のペンネームでも仕方がない」と割り切っていた自分がいたこともあり、これには少し感激しました。もちろん日本で活動していた際に(日本)とクレジットされる機会はありませんでしたが(笑)、中国におけるこの(日本)にはとても意味があるように感じました。

あとで聞いたのですが、この作品に携わったメンバーの一人が「せっかく外国の作曲家さんが携わったのだから…」と強く推してしてくれたそうです。載せることでデメリットになる可能性(日中関係が反日デモが起きていた頃レベルまで急転するなど)はあってもメリットはないので断るほうが自然ですが、毎日のように現場で話し合い時には喧嘩寸前になりながら一緒に作り上げた中で知らない間に「外国人」から本当の「朋友(友達)」になっていたのでごく自然に受け入れてくれたそうです。

この国は「朋友(友達)」とそれ以外の差が限りなく大きい、私はそう感じています。日本のように友達でもない人に(中途半端に)親切にするような文化は少ないように感じています。逆に友達のためなら何でもする、そんな印象すらあります。みんなこの国で一番大切なものは「关系」(関係)と言っていて、私自身それを実感させられる瞬間もあります。

しかし、そんな关系も一緒に一生懸命汗を流す中で自然に培われていくということを改めて認識した映画の制作となりました。



Mine Kawahara

投稿者について

Mine Kawahara: 河原嶺旭(かわはら みねあき) 1988年10月18日生まれ。 神奈川県横浜市出身。 17歳から音楽を始め、20歳でテレビドラマ「メイド刑事」挿入歌で作曲家デビュー。2011年にAKB48に提供した『風は吹いている』が160万枚を越えるヒットとなり『アイドルと同世代の作曲家』として注目を集め、同年の年間作曲家売上第三位を獲得。アニメ・ゲーム関係の仕事も数多く手がけており、雑誌のコラムの執筆や教育関係など仕事の幅は多岐にわたる。2013年より、北京・上海を中心に活動している。